金の需要と供給データを投資家目線で考える

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金ETFが人気ですね。

2020年3月、金ETFによる金現物の保有残高は3200トンとなり、過去最高を更新したそうです。
といっても何のことやら分からないですよね。
今回は世界の金の需給データから、「金ETFの保有残高3200トン」の意味するところを探ってみます。


金の地上在庫

・金の地上在庫とは、地上に存在する金の総量です。人類が有史以来、掘り出したすべての金を合計したものですね。
・金の地上在庫は、合計18万トンです。
・公的機関(中央銀行、IMFなど)の保有が3.5万トンで、全体の2割を占めています。意外と多いですね。



毎年の需要と供給

・金は、通貨と商品の性質を併せもっています。
・金は商品としての性質をもつため、金価格は需要と供給に左右されます。



・金の供給量は、過去10年を通じて、毎年4500トン前後で推移しています。
・鉱山生産は、新たに採掘されたものです。
・正味生産者ヘッジとは、金鉱山会社が価格ヘッジのために行う先物取引のことです。

 金供給
 (単位:トン)
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
2019年
鉱山生産
2748
2857
2929
3110
3206
3313
3427
3457
3529
3480
中古金スクラップの再利用
1679
1651
1671
1248
1188
1121
1282
1156
1178
1312
正味生産者ヘッジ
-109
23
-45
-28
105
13
38
-26
-12
21
合計
4319
4531
4555
4330
4499
4448
4747
4587
4694
4812



・金の需要は、毎年どれだけの金が購入されているかを表します。



・過去10年の金需要の推移です。



 金需要  (単位:トン)
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
2019年
宝飾品
2057
2104
2157
2726
2531
2459
2101
2240
2244
2119
投資:
1588
1759
1566
849
914
962
1615
1318
1167
1275
   金現物
1204
1502
1312
1731
1067
1092
1073
1047
1092
871
   金ETFなど
384
257
254
-882
-153
-129
541
271
75
404
公的機関(中央銀行、IMF)
79
481
569
629
601
580
395
379
656
648
その他加工品など
461
429
382
356
348
332
323
333
335
327
合計
4185
4773
4674
4561
4395
4332
4434
4269
4402
4368

・各国の中央銀行は外貨準備として、ドルやユーロ、金(ゴールド)を保有しています。中央銀行が為替安定のために行う金の購入・売却が、金の需要・供給となります。

・ここ数年、公的機関による需要は500トン前後で推移しています。要するに、各国の中央銀行の売買量を合計すると、金の購入が売却より多いということですね。主にロシア・中国など新興国が、外貨準備として金を積み増しているためらしいです。一方、先進国の中央銀行はすでに大量の金を保有しており、新たな買い付け・売却をほぼ行っていません。





・金は商品であると同時に、通貨でもあります。
・日本の外貨準備に占める金の割合は極めて小さいですが、日本の場合は、外貨準備としてドル(米国債)を中心に保有しているそうです。

中央銀行の金保有量 ランキング(2020年)
保有量(トン)
外貨準備に占める金の割合
過去5年間の合計増加量(トン)
米国
8133
78%
0
ドイツ
3366
74%
-18
IMF
2814
0
イタリア
2452
70%
0
フランス
2436
64%
0.6
ロシア
2290
21%
+1082
中国
1948
3%
+894
スイス
1040
6%
0
日本
765
3%
0
インド
635
7%
+77

・過去5年間の合計増加量を見ると、ロシア中央銀行が1082トンです。一方、過去5年間における金ETFの合計買い付け量は1162トンで、ほぼ同じくらいです。そのうち1/3が「SPDR Gold Shares」と仮定すると、金市場における「SPDR Gold Shares」の存在感はかなり大きいといえそうです。金ETFは、金現物の主要な買い手の一つであるということですね。


金ETF

・金ETFは、価値の裏付けとして金現物を保有しています。2020年3月現在、世界の金ETFが保有する金の総量は、合計3200トンです。2007年の700トンから急増しています。

・金ETFによる金の保有量3200トンは、地上在庫18万トンのうち2%以下です。地上在庫から見ると、保有シェア2%は小さいですね。
が、金ETFは2010年代に急拡大し、金を購入し続けました。たとえば2019年の総需要4400トンのうち、金ETFの占める割合は約9%です。このように需要シェアから見ると、金ETFの存在感は大きいですね。

・ちなみにドル換算すると、金ETF全体の運用資産残高は1500億ドルです。

・下図は、金ETFによる金の保有量ベスト10です。第1位は「SPDR ゴールド シェア」1000トン。第2位は「iシェアーズ ゴールド・トラスト」400トン。
これは各ファンドの規模を表します。金ETFの場合、株式ETFに比べて市場規模が小さいため、流動性(売買のしやすさ)を重視する人が多いですね。

 ファンド国 金の保有残高
(トン)
SPDR Gold Shares米国967
iShares Gold Trust米国391
Xetra-Goldドイツ209
iShares Physical Gold ETC英国195
Invesco Physical Gold ETC英国185
WisdomTree Physical Gold英国146
Gold Bullion Securities Ltd英国83
ZKB Gold ETFスイス72
Xtrackers Physical Gold ETC EURドイツ67
Xtrackers Physical Gold Euro Hedged ETCドイツ58
合計3185

・このランキングは上位10ファンドのみを掲げています。その他のファンドも合わせると、金ETFによる金現物の保有残高は、合計3185トン、だいたい3200トンです。


主要な金ETFについて、こちらの記事でまとめています。


金価格の見通しはこちらの記事で行っています。

参考資料

Goldhub, World Gold Council
諸データの出所です。ただし金の地上在庫は各資料をざっくり付き合わせたもの。正確な保有量はおそらく不明です。



ちょっと古いけどいい入門書です。

原題は"The New Case for Gold"。邦題が煽りすぎってAmazonレビュアーの皆さんに突っこまれてます(笑)
ちなみに本書の著者は、「近い将来、通貨危機が生じて金本位制が復活する」と主張しています。一方、上掲の池水氏は、「各国が独自の経済政策を採りづらくなること」を理由に、金本位制への復帰に懐疑的な意見を述べています。両者を読み比べてみるのも一興ですね。

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