金本位制と金ETF、どこが違うのか?
金現物と交換できる金ETF
金ETFを購入するとき、「金現物と交換できるか」を重視する人がいますね。
私見では、金ETF商品は次の3つに分類できそうです。
①金価格と連動する。金の裏づけなし。
②金価格と連動する。金の裏づけあり。金現物と交換できない。
③金価格と連動する。金の裏づけあり。金現物と交換できる。
GLD(SPDR ゴールド シェア)、IAU(iシェアーズ ゴールド・トラスト)など、主要な金ETFの多くは、金の裏づけがある②のタイプです。
つまり、金ETFの発行量に応じて、金現物が市場で買い付けられ、倉庫に保管される。この金現物の所有権が有価証券として発行されるのですね。
③の金現物と交換できるタイプとしては、日本の金ETF商品である「金の果実」シリーズが有名ですね。「金の果実」は、日本国内に金を保管する倉庫があり、希望すれば金現物(金の延べ棒)を自宅に送り届けてくれるそうです。
一方、アメリカの金ETF商品(②のタイプ)は、アメリカに倉庫があるにもかかわらず、金現物との引き換えに応じていない。なぜでしょうか?
私の推測ですが、おそらく、金ETFのコンセプト「金の流動性を高め、売買しやすくすること」に反するためと思われます。つまり、いちいち金現物との引き換えに応じていると、その都度手配しなければならず、輸送費もかかり、売買しづらくなるためだと思われます。
かつて金ETFが登場する以前、金に投資する主な方法は、金現物を購入し、自宅や近所の倉庫に保管することでした。
「金の果実」は、昔ながらの金現物保有と、金ETFとの性格を併せもった商品であるといえそうです。
ちなみに私は自分のお金を投資するとき、「金現物と交換できるかどうか」を重視していません。
「金現物と交換できる」というのは、現物志向が強い高齢者向けに、オプション的なサービスとしてやってるのかな~と感じます。
さて、本題です。長い前置きですいません (^^;
このような特徴をもった金ETFですが、かつての金本位制時代の貨幣とどこがちがうのか?
気になったので調べてみました。
金本位制下の貨幣
・普仏戦争(1870年)~第一次大戦勃発(1914年)の期間、主要国の貨幣は、英ポンドを中心とした金本位制であった。
・貨幣の流動性は高い。貨幣は、貨幣以外のあらゆる資産と容易に交換できる。
・貨幣と金の交換レートは固定。金1g=0.125ポンド=約1.333円。
・正貨準備率は変動する。
「正貨準備率」:
貨幣価値の裏づけとして、各国が保有する地金の割合。中央銀行が発行する貨幣の総量に対して、中央銀行が兌換に応じるために保有する地金の割合のこと。
この準備率が急激に低下すると、取りつけ騒ぎなど通貨危機が発生することがある。準備率が何%以下で通貨危機が発生するかについて明確な基準はないが、たとえば1904年日露戦争下の日本では、戦費を賄うため日銀券の発行増加により、正貨準備率は前年度50%から20%に急減し、通貨危機(金本位制放棄)が懸念された。同年、外債発行による正貨補充で準備率は50%に回復し、通貨危機は回避された。
一般的に、信用力の高い基軸通貨は、準備率が低くても信用不安は発生しない。第一次大戦以前、19世紀後半のイングランド銀行では準備率20%程度。戦間期~ニクソンショック以前(1920年~1960年代)のアメリカでは準備率40%程度が目安であったか。
貨幣価値の裏づけとして、各国が保有する地金の割合。中央銀行が発行する貨幣の総量に対して、中央銀行が兌換に応じるために保有する地金の割合のこと。
この準備率が急激に低下すると、取りつけ騒ぎなど通貨危機が発生することがある。準備率が何%以下で通貨危機が発生するかについて明確な基準はないが、たとえば1904年日露戦争下の日本では、戦費を賄うため日銀券の発行増加により、正貨準備率は前年度50%から20%に急減し、通貨危機(金本位制放棄)が懸念された。同年、外債発行による正貨補充で準備率は50%に回復し、通貨危機は回避された。
一般的に、信用力の高い基軸通貨は、準備率が低くても信用不安は発生しない。第一次大戦以前、19世紀後半のイングランド銀行では準備率20%程度。戦間期~ニクソンショック以前(1920年~1960年代)のアメリカでは準備率40%程度が目安であったか。
金ETF(有価証券)
・金ETFとは、金価格に連動する金融商品である。金現物を裏づけとする。つまり、金ETFの発行量に応じて、金現物が市場で買い付けられ、倉庫に保管される。この金現物の所有権が有価証券として発行される。
・流動性は低い。有価証券は、いったん貨幣に換金する必要がある。
・ETFと金の交換レートは固定。たとえば「SPDR ゴールドシェア」の場合、ETF1口=0.1トロイオンス(約3.11g)に固定されている。
・ETFの価値の裏づけとしてファンドが保有する金現物の総量は、ETFの発行量に固定されている。金本位制風にいえば、ETFの総発行量に対する金準備率は100%に固定されている。つまり、ETFの発行量が増えるほど、そのファンドが保有する金現物の総量も増える。
金本位制時代の貨幣と、金ETFを比較
両者の特徴を表にまとめてみました。
発行の仕組みに着目するかぎり、金本位制下の貨幣と、金ETFの違いは見い出せません。
むしろ金ETFは金準備率100%を厳守している点で、かつての貨幣より健全であるといえます。金ETFの発行元を、金本位制時代の中央銀行のようなものとしてイメージすると分かりやすいですが、金ETFはむやみに証券を乱発しないわけですから。
しかし定義から考えてみると、金本位制下の貨幣と、金ETFはまったく別物です。
おそらく多くの人にとって、金ETFを保有する動機は「将来、値上がりしそうだから」というものでしょう。
「値上がり」とは、貨幣に対して価値が上がることです。つまり、貨幣の存在が前提されている。いつか値上がりしたら、貨幣に戻すつもりで金ETFを購入するわけですよね。
一方、金本位制かつ固定相場制のもとでは、「将来、貨幣が値上がりしそうだから貨幣をもつ」という人はいないと思われます。「貨幣が値上がりする」って、ちょっと意味不明ですよね。
要するに、両者の違いは「相場が成立するかどうか」であるといえそうです。
金本位制下の貨幣について、貨幣相場は成立しません。
一方、金ETFでは、貨幣に対する価値が変動するという意味で、相場が成立する。貨幣を基準にして、その代替物として金ETFの価値が上下する。
このように、金ETFはあくまで貨幣の代替物である(とみんなが信じている)ところが、両者の最大の違いだと思うのですが、いかがでしょうか…?
●参考文献
・板谷敏彦『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―』
・富田俊基『国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来』
金の需要と供給データはこちら。
金ETFについてはこちらの記事でまとめています。
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