リーマンショック前夜の日経新聞を振り返る
○○ショックは、誰も予測できないから「ショック」と呼ぶわけで、当時の人々はリーマンショックの発生を予測できなかったでしょう。そしてリーマンショック中も、株価がどこまで下がり続けるのか分からなかったでしょう。
というわけで、当時の日経新聞をざっくり読み返してみました。
今回はその感想です。
2007年前半
当時の日経新聞は、日本経済の話題が圧倒的に多い。さすが「日本経済新聞」と名のるだけありますね。
数少ないアメリカ経済の記事では、アメリカ国内のインフレ懸念、またドル円相場と絡めた論調が多いです。
「米経済、再浮上に挑む」(2007年1月3日の記事)では、「FRB(アメリカの中央銀行)は国内のインフレを抑制するために政策金利を上げたい。しかし政策金利を上げると、緩やかに減速しつつある米景気の回復に水を差してしまうため、政策金利を5.25%に据え置き、静観の構えをとる」といった内容を伝えています。
2007年初頭においては、アメリカ経済がインフレの影響で少しずつ減速しつつあり、インフレさえ抑制できればなんとかなる、という認識だったようです。
いわゆる「サブプライム住宅ローン危機」が表面化するのは同年夏ごろからで、この頃はまだ「アメリカの住宅市場が景気回復の『重し』になっている」という表現です。
当時は日本や新興国に比べて停滞気味であったアメリカ経済ですが、アメリカの話題を紙面で採り上げる際の優先順位としては、①アメリカ国内インフレ、②ドル円相場、③アメリカ国内の住宅投資が減少、といった順位づけでしょうか。
3月28日の記事では、「アメリカで住宅ローンを組んだサブプライム層(貧困層)が住宅を差し押さえられるなど社会問題化しつつあるので規制すべきである」と小さく伝えています。数ある海外の話題のひとつといった感じです。日経新聞なので「住宅ローンの焦げ付き」として報道しているけど、「アメリカでは住宅を差し押さえられて困っている人が多い」という社会問題として捉えていた人も多かったのではないでしょうか。同記事では、米民主党議員がサブプライムローンを問題視、貧困層に対する「略奪的融資」であるとして規制を求める、と伝えています。「貧困商売けしからん」という主張ですね。
2007年前半を総括すれば、M&A関連や日銀の金利政策など、日本国内の話題が圧倒的に多い。アメリカ経済の話題はちらほら散見される程度です。2020年現在から見ると、隔世の感がありますね。
私は当時の雰囲気をリアルタイムで知らないけど、おそらく当時の感覚では、アメリカ住宅市場の問題をリスク要因として重視するのは無理だったと思われます。
2007年後半~2008年前半
2007年後半から、紙面の雰囲気が変化したような印象を受けます。現在でも興味深く読める記事が増えたというか。
「世界中で金余りが生じており、行き場を失ったグローバル金融資本がバブルを引き起こして云々…」といった具合に、2020年現在おなじみの論調も多く見かけます。
この頃からサブプライム関連の記事が増えてきます。「サブプライム住宅ローン問題がきっかけでアメリカの金融市場がパニックに陥っており、アメリカの実体経済に悪影響が出ている。つまり米経済は後退局面に入っている」といった論調の記事が多いです。
「危機」ではなく、あくまで景気循環の一つとしての「後退局面」にアメリカは入りつつあるといった位置づけです。
2008年4月2日の記事では、「サブプライム問題の影響で先進国の景気は悪化している。しかし、インドや中国など新興国がけん引する形で、世界全体としては堅調さを保つ。サブプライム問題の影響は2009年初頭まで続くだろう」との見通しを伝えています。
2007年11月の記事では、投資信託で「米離れ」が進む代わりに、アジアなど新興国への投資が人気であると伝えています。当時はBRICSブームでしたね。
2008年9月15日
リーマンブラザーズ破綻。日経新聞は号外を出しました。
いわゆるリーマンショックはこの日、2008年9月15日からですが、米株価は2007年10月から段階的に下落を開始しています。
当時の米株価チャートを見ると4番底くらいまであり、その都度、底値を更新しています。
総評
サブプライム危機が表面化する以前から報道されてはいるのだけど、それを最重要リスクとして認識することは難しい。情報はすべて公開されているのに、そのうちどの話題を重視すればいいのかが分からない。
現在でいえば、新型コロナでも米中摩擦でも新興国債務危機でもなく、まったく予測不能なところから危機が拡大するようなイメージでしょうか。
私たちは今現在において、将来のリスク要因を視界の隅っこで捉えているはずなのだけど、それが危機としては認識されない。
この辺りに相場予測のもどかしさを感じます。
●参考
IMFが発表している「世界経済見通し」では、当時の雰囲気をより詳しく知ることができます。
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