国債・金融史④1920年代――再建された金本位制と世界恐慌

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1929年世界恐慌の要因に関する三つの説

世界恐慌の要因に関して、次の三つの説が挙げられる。

①資本主義は本来的に恐慌を孕む(マルクス主義の考え方)。
②FRB(アメリカ連邦準備銀行)の政策ミス。
③国際金本位制のもとでは、英米の中央銀行が協調することは困難で、②の政策ミスは不可避である。

以下、③について詳説する。
25年にイギリスは旧平価で金本位制に復帰する(金とポンドの交換比率を、第一次大戦以前の旧レートに設定)。28年にフランスは新平価で金本位制に復帰する(金に対してフラン通貨を切り下げ)。このとき国際市場における実勢レートに比べて、ポンドは割高に設定された。このポンドの過大評価は、次の二つの側面をもつ。

・金に対するポンド高:
イングランド銀行の保有する正貨準備金が、ポンド紙幣へと換金される(預金が引き出される)
→イギリス市中のポンド紙幣は、過熱するニューヨーク株式市場に流出
→イギリスの準備金・通貨量ともに減少。

・他国通貨(ドル、フラン)に対するポンド高:
イギリスの輸出減少(国際収支の悪化)
→資金はアメリカ、フランスに流出。

「金の不胎化政策」



このときイングランド銀行は、正貨準備金の流出を防ぐため、金融引き締め(公定歩合の引き上げ)を行わざるを得ない。他方でFRBは、必ずしも金融緩和を行う動機がない。むしろ、アメリカ国内の通貨供給量が増えている状態で金融緩和を行うと、さらに通貨供給量が増えてインフレが生じ、国内経済が混乱するおそれがある。そこでFRBは、金の流入と通貨供給量との結びつきを遮断するため、「金の不胎化政策」――短期証券を発行・売却し(売りオペ)、市中から回収した金を不活動資金として凍結――を行った。この政策は《正貨準備金と通貨供給量を連動させる》という金本位制のルールを無視したものであった。その背景として、次の二つが挙げられる。

①アメリカに覇権国としての自覚がなかった――
国際金本位制が機能するためには、各国の中央銀行の協調(英国の金融引き締めと同時に、米国の金融緩和を行うこと)が必要である。しかし当時のアメリカには、市中の資金が一極集中していたにもかかわらず、覇権国としての政治的自覚に乏しく、ヨーロッパ経済より国内経済の安定を優先した。

②国際金本位制の制度的欠陥――
そもそも国際金本位制には、常に金融引き締めバイアス(=不況バイアス)がかかっている。英米間の中央銀行の協調(英国の金融引き締めと同時に、米国の金融緩和を行うこと)は、イギリスにとって利益だが、アメリカにとって損失を伴う義務であり、この義務を遂行する動機がない。アメリカの覇権国としての自覚のなさを責めるよりもむしろ、イギリスにはめられた「金の足かせ」(金本位制下での金融政策の不自由さ)を取り外すべきではないか。
史実では、FRBはボンド救済措置としての金融緩和を一時的に行っているが、継続的ではなく、英米間の中央銀行の協調は不十分であった:
24-27年、イングランド銀行からポンド救済要請を受けたFRBは、金融緩和を行う(公定歩合の引き下げ、市中から国債を購入)。
→アメリカ国内における市中への通貨供給量が増える。
→28-29年、ニューヨーク株式市場は過熱し、それに伴う国内インフレ対策として、FRBは28-29年前半、金融引き締めを行う(公定歩合の引き上げ、4億ドルの国債売却)。
29年10月、世界恐慌(株価暴落)

通貨切り下げ競争

以上をまとめると、世界恐慌の要因は、国際金本位制の制度的欠陥にあった。31年イギリスをはじめ、各国は金本位制から離脱、「金の足かせ」を外した各国の通貨は下落し、各通貨ブロック圏による切り下げ競争へと至る。
この通貨切り下げ競争について、経済的にみれば、各国の通貨当局(政府、中央銀行)による通貨供給量の調整(金融緩和による通貨供給量の増加)を可能にし、国際市場における実勢レートに見合った適正な通貨価値への下落を引き起こし、各国が恐慌から脱出するきっかけとなった点で、評価しうる。なお史実では、通貨切り下げ競争は、関税障壁と合せて、ブロック経済として行われた。それは、植民地をもたざる国に対する圧迫となった。
そして、(法定為替レートではなく)実勢為替レートとは、誰によって形成されるのか?それは国際金融市場におけるプレーヤー、すなわち無数の投資家によってである。国境を越えた資本移動の是非についても考慮に入れるべきであろう。

参考文献

 

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