国債・金融史⑦戦後日本

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国債管理の三側面

国債管理には次の三つの側面がある。

・財源調達:
政府が政策に必要な財源を調達するため、国債を発行する。

・予算管理:
財務省の管轄。政府予算(歳出)の肥大化を抑止して、財政均衡(プライマリーバランス)を重視する。

・貨幣価値の管理:
中央銀行の管轄。金融緩和・引き締めを通じて、物価に対する貨幣価値を調節する。

国債市場の役割

国債市場には次の三つの役割がある。

・政府が資金を調達する場所
・投資家が資金を運用する場所
・国民資源の配分を最適化する場所

戦後初の国債発行

1965(昭和40)年、高度成長の谷間の不況期に、戦後初めて国債が発行された。発行額は国家予算の1%以下であったが、この年以降、歳入の全額を税収でまかなう財政均衡主義が放棄されることになった。
国債の買い入れ先として、民間投資家(市中消化)、大蔵省資金運用部、日銀の三案が議論された。20年前のハイパーインフレの鮮明な記憶もあって、国債の日銀引き受け案は不採用となり、市中消化、および大蔵省資金運用部が国債を引き受けることになった。市中消化のため、主要金融機関によって国債引受シンジケート団が組織された。シ団引き受けの一部は市中消化されたが、ほとんどはシ団メンバーの金融機関によって保有された。
政府による国債発行は、日銀にとっては、金融政策(物価と貨幣価値との関係をコントロールすること)のための有効な手段の出現を意味した。その手段とは、国債の買いオペ(貨幣供給)である。日銀は1967年以降、国債の買いオペをスタート、金融機関の保有する国債は日銀に吸収された。このとき、発行後1年未満の国債は買いオペの対象から除外された。たとえ金融政策(貨幣価値と物価の安定)が目的であっても、政府の財政赤字を補填するための日銀引き受けと実質的に同じことである。「戦時中の国債日銀引き受けが、戦後のハイパーインフレを引き起こした。今回も同様にハイパーインフレが起こるのではないか」という不安を払拭するため、国債の市中消化という建て前が尊重されたといえる。

MMT(現代貨幣理論)と民主主義

なぜ、国債の日銀引き受けは望ましくないのか?正確にいえば、なぜ、国債の発行総額のうち、一定額を市場のメカニズムにさらすべきなのか?たしかに、MMT論者の主張する通り、必ずしも財政均衡(プライマリーバランス)を常に最優先すべきではないかもしれない。とはいえ、たとえ目安としてであっても、なぜ財政規律が要請されるのか?
それは、財政規律が弛緩すれば、政府の肥大化や、資源配分の非効率が生じるためである。
市場で取引される国債とは、政府の民間に対する債務であり、国民の貯蓄(資産)である。いわば国民は、自らの貯蓄を政府にゆだねていることになる。政府の任務は、国民から預かったお金を、それぞれの政策に振り向けることである。この政策の優先順位付け(予算配分)を最適に行うことは、とても難しい。政府における少数のエリートが行うより、国民みんなが参加して行う方が、きっとうまくいく。民主主義では、一応そういうことになっている。
政府の予算配分を国民がチェックする方法には、国民世論や選挙がある。国債の市場評価(国債の市場価格や利率の変動)も、その一つである。
もちろん可能であれば、政府歳出をすべて税収で賄うことが望ましい。しかし、それができないとき、政府は国債を発行する。もし、国債(政府債務)をすべて日銀から調達すると、国民にとっては、政策に使用される財源が自分のお金ではないので(税金でも貯蓄でもないので)、無責任なことを際限なく要求するようになるだろう。それは民主主義ではない。国民が政府にお金を預け、そのお金を適切に運用してくれ、と要求するほうが、民主主義っぽい。「民主主義ではない」という言い方が理念的に過ぎるなら、「政府が肥大化して、資源配分が非効率になる」と言い換えてもいい。

参考文献

 


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