国債・金融史②金本位制――第一次大戦以前

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国際金本位制 1871~1914年

・国際的に金本位制が確立した時期は、普仏戦争とドイツ帝国成立(1870ー71年)~第一次大戦勃発(1914年)である。

・イギリスは1816年に金の法定価格を《金1オンス(31g)=3.89375ポンド》と定める。1844年にイングランド銀行は発行紙幣と同額の正貨準備金を保有することとして、ポンド通貨をいつでも金と交換できるようにした。1870年代以降、欧米各国は金本位制を採用する。こうして各国通貨は金と等価関係にあることが保証され、為替レート(各国通貨の交換比率)は安定し、自由貿易が盛んになる。

・実物貿易とともに金融取引も盛んで、その中心地・ロンドン市場では、各国公債がその信用力(元本と利子の支払い能力)に応じた価格で売買されていた。

・19Cを通じてイギリスの産業力は優勢で「世界の工場」と呼ばれていたが、19C末頃、仏・独・米国が追いつきはじめる。

・ドイツ帝国は普仏戦争で得た賠償金をもとに、銀本位制から金本位制に移行する(1871年)。それに伴い、ドイツと経済的に結びついていたオランダ・北欧三国も70年代に金本位制に移行する。

・フランスは1878年に金銀複本位制から金本位制に移行する。その背景として、《アメリカ大陸の銀鉱山開発による銀の流通量の増加》、《金本位制の普及に伴う金(正貨準備金)の需要増》により、金の価値は銀に対して上昇した結果、フランス国内の金銀法定比率と、国際市場における金銀交換比率が乖離して、フランスに銀が流入、インフレが発生したため。

・中国などアジアでは銀本位制であった。

・英領インドなどアジア・ラテンアメリカの植民地では、国内では銀貨が流通していたが(銀本位制)、対外貿易・外資投下の便宜のため、国内通貨を「金為替」と交換する制度が、1900年頃から順次採用された。「金為替」とは、宗主国が保有する金と交換可能な為替手形(証券)のこと。貿易決済のために地金を船で輸送するのはコスパが悪いため。

・日本の金本位制(1897–1917年)の場合も、国家財政の主導権(金に対する債権)は日本にあるものの、《国内に保有する地金》と《国外に保有する正貨(外貨。ポンド紙幣)》を合算して正貨準備金に充てていた点で、発想としては「金為替」制度に近いといえる。つまり日本にとって、《ポンド紙幣≒金為替》である。

ロンドン金融市場と、覇権国イギリス

国際金本位制では、貿易の決済は、金または外国為替(ポンド為替などの証券)で支払われるが、金そのものの輸送量は少なかった。ロンドン金融市場では、各国の貿易の決済が集中的に行われた。たとえば日本は、対米輸出の代金として受け取ったポンド為替を、対独輸入の支払いに振り向けることができた。日本は貿易の支払い(国際収支)をポンド為替に集約して、その差額を金輸送で清算すれば済む。もし輸出超過であれば、余った資金をロンドンに預けたり、反対に輸入超過であれば、ロンドンから短期資金をポンドで借りることができる。このようにロンドン金融市場は、各国に対して資金を供給し、各国の国際取引における資金の過不足を調整した。その頂点に最後の貸し手として君臨していたイングランド銀行は、巧みに公定歩合を操作し、ロンドンにおける資金の過不足を調整できたので、実際にイングランド銀行が保有する準備金の量は少なく、金の移動も少なかった。このように、国際収支の恒常的な黒字国であるイギリスが、良き債権者=覇権国として振る舞い、国際的なアンバランスを調整することで、国際金本位制は安定的に機能した。

中央銀行の3機能

中央銀行の機能は次の3点である。

・政府の銀行――政府に融資すること。
・銀行の銀行――同下
・紙幣発行権の集約――中央銀行が発行する紙幣(中央銀行券)のみを法貨として認定することで、その他の民間銀行が保有する中央銀行券=預金準備となる。逆にいえば、中央銀行は民間銀行に対して預金準備を供給することになる。イギリスでは1844年、紙幣発行権がイングランド銀行(中央銀行)に集約されるとともに、正貨準備金制度が定められる。

正貨準備金=外貨準備高

正貨準備金とは、各国の通貨当局(政府、中央銀行)が保有する正貨(金)のこと。金本位制下では、国内向けの兌換準備金(紙幣と交換可能な地金)であり、対外的にはその国の支払い能力の目安となる。国際金本位制の最盛期(第一次大戦の直前期)において、主要国の合計内訳は、金68%、銀16%、外国為替16%であった。ただし日本・ロシア・インドなど後進国では、外国為替の保有率が高い。ここでの外国為替(外貨証券)とは、英仏独など先進国の中央銀行に対して貨幣の支払い(預金の引き出し)を請求できる権利のこと。たとえば日本にとって、外貨(ポンド建ての在外正貨)は地金との交換が保証されているため、ポンド紙幣の保有残高が、間接的に日銀券の兌換準備金を意味する。

現代の管理通貨制において、外貨準備は、為替レート(自国通貨の交換比率)を安定させるための介入資金として使用される。たとえば円が急落すると、通貨当局(政府や中央銀行)は手持ちのドルを売り円を買うという形で為替レートに介入し、円高ドル安へと誘導する。その反対に円が高騰すると、通貨当局は円安へと誘導するために、円売り・ドル買い介入を行うが、これに必要な円資金は政府短期証券の発行によって調達される。

金本位制のルール

金本位制では、各国は次の3点を法制化する。

・金の法定価格
・金と紙幣の兌換
・金の輸出入の自由

金本位制のメリット

金本位制のメリットは、為替レートと貿易収支が、自動的に調節されることである。

①為替レート(各国通貨の交換比率)の安定
たとえ金の輸出が自由化されているとはいえ、貿易の決済のために、わざわざ地金を輸送するのはコスパが悪いため、通常は外国為替(ドル為替などの証券)で支払われる。しかし、たとえば日本が対米輸入超過になると、日本の輸入商は貿易赤字分をドル為替で支払うため、ドル需要が増え、ドル高になる。このとき、金の輸出が自由に行えると、日本の輸入商は、円紙幣を日銀で地金に交換し、地金をアメリカに輸送した方が、円紙幣をドル為替に交換して支払うよりも安上がりである。このように金の輸出を自由化することで、貿易商人の功利的な行動を通じて、為替レートは安定し、ほぼ固定相場制になる。
したがって、輸入超過(国際収支の赤字)が続くと、中央銀行から正貨準備金は流出し続けることになる。

②貿易収支の安定
次のプロセスを通じて、貿易収支は自動的に調節される。
《貿易赤字→各国の通貨当局(政府、中央銀行)は正貨準備金を貿易赤字の支払いに充てる→正貨準備金の減少に伴い、国内の通貨量も減少する→国内の物価は下落(デフレ)、輸出品の価格は下落するので有利となる。輸入品は国内品より高価格なので不利となる→貿易赤字の解消》。
同様に、輸出超過の場合は反対のプロセスが生じる。このように、《貿易不均衡→金の流出入→国内通貨増減→物価の調節→貿易不均衡の是正》というプロセスを通じて、貿易収支は自動的に調節される。


金本位制のデメリット

金本位制のデメリットは、金準備(外貨準備)の枯渇を防ぐために政府が取りうる諸策に限界があることである。

①自国通貨の切り下げ
たとえば英ポンドの対金レートを半分に切り下げると、外貨準備は実質的に2倍になる。しかしこの措置は通貨不安を呼び起し、通貨から金(外貨準備)の交換へと人々を駆り立てるかもしれない。そうすると外貨準備は減少し、逆効果となる。

②外債発行
外貨準備を外国から借り入れる。ただしこの場合、外貨での利払い義務が生じる。

③経済収縮
金本位制には貿易収支の自動調節メカニズムがある。このメカニズムを利用し、デフレ不況へと誘導することで、貿易収支は改善し、外貨準備を蓄積できる。つまり経済を収縮させると、借り入れをせずに外貨を獲得できる。ただし不況を招き、国内の失業者が増える。


通貨論争

銀行の信用創造をめぐって、銀行学派と通貨学派との間で行われた論争のこと。通貨学派が勝利した結果、1844年にイングランド銀行条例が制定される。
しかしこの条例が定める兌換制度は、その後の金融危機により3度にわたって停止されたため、銀行学派の権威が強化されたとする見方もある。

・通貨学派の主張:
通貨は金準備の裏づけを必要とする。さもなくば銀行券は過剰に発行され、インフレになるだろう。したがって、金準備をこえる銀行券の発行を規制すべきである。

・銀行学派の主張:
たとえ銀行券が過剰に発行されたとしても、預金者はインフレを懸念して銀行券を金現物に交換するため、銀行券過剰発行の問題は自動的に解決されるはずである。

両派の論争は、「通貨当局は国民の経済活動にどの程度介入すべきか、またどのようにして介入することができるのか」という問題として、現代に至るまで何度も変奏されている。

参考文献



     


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